症例報告

vol.6

病棟の問題解決に
「因縁果報ウイズダム」の実践が功を奏したと思われる体験

T医科歯科大学医学部付属病院 M.T氏

【はじめに】

骨髄移植は血液疾患患者にとって治癒に至る大きな希望となっているが、副作用や合併症が多く、特に非血縁者間の移植は非常にリスクが高い。又、小児の骨髄移植は、成人と異なり患児本人への細かいケアやご家族に対してのケアも重要であり、その看護は難しい。当病棟は成人の血液疾患の患者が多く、これまで骨髄移植の看護も小児の看護も経験がなかった。その病棟で小児の非血縁者間の骨髄移植を急遽実施せざるを得ないという事態に直面し、「因縁果報ウイズダム」に取り組むことによって20日間という短期間で準備が整えられ、大きな事故や合併症も無く、無事に移植を終了することができた体験を報告する。

【方法と経過】

本年の6月初旬に師長から副師長(演者を含む2名)へ小児(14歳)の骨髄移植を当病棟で行うかもしれないという相談があった。病棟は多忙であり、骨髄移植までは約20日間しか準備期間がなかったので、演者は当初は、不可能であると考え、そのように師長に伝えた。しかし、種々の事情からこの事態が避けられないこととなったため、演者はまず「因縁果報ウイズダム」に取り組んだ。

目的を、「移植を受けるお子さんが安心し、かつ安全に治療を受けて元気になって帰っていただくこと、そのご両親にも安心していただけること、そして、病棟のスタッフ一人ひとりにとってもこれが良い経験になるように」とし、多忙な業務の中で短期間に小児科の骨髄移植の看護の準備をしなくてはならないことや、また、小児科看護、骨髄移植看護の経験者が全くいないことを現状、暗転の「果報」とした。

次に自分の意識(暗転の「因」)を見ると、その困難な事態に対して「病院は協力してくれない」「医師の都合で看護師が大変なことをやらされる」という不満の想いであった。そして、その根底に「医師は病棟や看護師を大事にして当然、看護師の大変さが分かって当然」という医師への強い依存心があったことに気づいた。 その暗転の「因」を「私が今まで支えていただいたように、今度はAさんとそのご両親、関わる医師、スタッフ一人ひとりを支えて参ります」と転換した。

次に光転の「縁」の同志に師長と同僚の副師長を挙げ、3人で話し合いを重ね、チームとして目的意識を共有し、移植に至るまでのプランを精密に立てた。

また、病棟全体に移植の看護の実際の理解を広げるため、小児科医師や小児科病棟の看護師に講義を依頼した。その場へのスタッフの出席率は高く、回を重ねるごとにスタッフ一人ひとりの切実さが増し、Aさんを直接受け持つ可能性が低い若手の看護師からも積極的に質問が出されていた。

その結果、患児は、途中感染症を発症することはあったが、重篤な事態に陥ることもなく、かつ、ご両親とスタッフ間との信頼関係もでき、無事に移植を終了して小児病棟に戻ることができた。また、その間、当初心配された他の成人患者さんに関する大きな医療事故も起きなかった。

 

【考察】

初めての骨髄移植、初めての小児、短い準備期間と多くの悪条件が重なる中で、このように良好な結果を出せたのは、病棟の責任者の一人である演者が、「因縁果報ウイズダム」のプロセスに丁寧に従うことによって、病棟スタッフ一人ひとりの気持ちが移植に向けて一つになり、病棟全体のポテンシャルがあがったからではないか、と考えられる。

【結論】

今回の体験を通し、病棟運営における困難な事態に対して「因縁果報ウイズダム」を実践することの可能性について大きな示唆を得ることができた。