症例報告

vol.18

TL人問学に基づく医療者の協働により救命し得た1症例

K市民病院 臨床工学技士 T.M氏

【はじめに】

近年、医用工学の発展により、医療現場では様々な医療機器が使用されるようになった。医療機器を扱う業務に対する国家資格の必要性が高まり、1987年臨床工学技士法が成立した。
  臨床工学技士は、医学と工学の両面を兼ね備えた国家資格でコメディカルの中では比較的歴史が浅い。2005年の調査では全国で約2万人である。そのうち集中治療領域に携わる技士は1割程度。半数以上が人工透析に携わっている。生命維持管理装置(人工呼吸器・人工心肺装置・血液浄化装置など)の操作や保守点検、医療機器の保守点検、安全管理、また、機器の取り扱いなどのスタッフ教育などが主な業務であり、医師をはじめ、看護師などと共に医療機器を用いたチーム医療の一員として生命維持をサポートしている。
  今回、筆者が「因縁果報ウイズダム基本篇」に取り組むことで、医師、看護師との秤が深まり、職種を超えた協働によって病状が回復した症例を経験したので報告する。

【症例】

8歳女児。体重19.8kg。カウプ指数16.36。染色体異常。

【入院までの経過】

患児は、自宅にて心肺停止、搬送中に蘇生、当院で人工呼吸管理となった。

 

症例18

 

【入院時所見】

「因」の転換以前の経過は、8病日まで従来型換気モード
(PCV,SIMV+PS,CPAP)で様々な換気条件で呼吸管理を行ったが、状態が改善せず、6病日から体外式人
工呼吸器で持続陰庄式換気(-10~-15cmH20)を併用した。しかし、通常40mmHg前後のPaC02が150mmHg代まで上昇したため換気不全となった。
通常、医師の指示がなければ、技士から自発的に患者さんに関わることはない。この患児に関して、主治医から技術的な相談がなかったこともあり、筆者は他の担当する患者さんの臨床技術提供に追われ、気になりながらも遠目で見て「主治医に任せておけば大丈夫。医者から何も言われないからいいわ」と、快・衰退の無関心で事態を捉えていた(図:現状Ⅱ[暗転の因])。

症例18

 

通常、重症の呼吸管理を行う場合、鎮静剤や筋弛緩剤を使い、患者さんの自発呼吸を抑制して、機械換気で呼吸を管理することがある。しかし、患児は、先天性の脳障害があり、副作用が懸念され、鎮静剤や筋弛緩剤は使用できなかった。患児の1分間40回以上の吃逆様の自発呼 吸と機械が合わず、小児科担当医と麻酔科医は、患児の呼吸状態が改善するよう懸命に様々な手を尽くしていた。
それにもかかわらず、筆者が麻酔科医師から相談を受けたとき(入院から6日後)には、患児はPaCO2151mmHg,pH6.89と瀕死の状態だった(図:現状Ⅰ[暗転の果報])。 事態の深刻さに初めて「この子は死んでしまう」と想い、無関心(暗転の因)でぎりぎりの状態まで関わらなかったことに強い後悔が湧いた。
「因縁果報ウイズダム基本篇」に取り組み、「諦めてはいけない、この子の呼吸が少しでも楽になるように。できる限りのことはやろう」と気持ちを定めた。(図:変革のⅠ[「因」の転換])。

症例18

 

同業の仲間に患児の状態を共有し、人工呼吸器の機種や換気モードの選択について知恵を借り、メーカーに2種の人工呼吸器を借りる手配をした。さらに、小児科、麻酔科の医師に人工呼吸器の特性と換気モードを説明し、変更を提案。小児科医師が選択した機種を看護師に取扱説明し、協力体制が整った。(図:変革のⅡ[「縁」の転換])

 

「因」の転換以後の経過は、8病日夕刻よりHFO:高頻度振幅換気法導入(設定はバイアスフロー20L,平均庄20~24cmH20,アンプリチュード45~55cmH20,振動数8Hz)となった。導入後のPaC02は100mmHg。16病日夕刻まで高頻度振幅換気法で呼吸管理した。
  胸部レントゲン写真(図4)では改善が見られたが、経皮的CO2モニターでの平均100mmHgで改善されないため、気管切開を機にBIPAP:二相性気道陽庄法導入となった。
pH7.35,PaCO2 52.2mmHgまで改善され、36病日より離脱に向けCPAP:持続的気道陽庄法に変更。呼吸状態が悪化する前の呼吸状態が不明で離脱までに時間を要したが、57病日離脱となり、現在は在宅酸素療法中である。先天性の脳障害のため、病的開眼があり、意思の疎通はできない。発症前と現在では、在宅酸素療法以外に状態に変化はないと思われる。
  学童期の急性期の人工呼吸管理に関して、全国的に症例数が乏しく、プロトコールが確立されていないことからも呼吸管理に難渋した。患児は、先天性の脳障害があり、鎮静剤の副作用が懸念され、投与できなかった。そのため、従来型の換気モードで行った様々な換気法や高頻度振幅換気法では自発呼吸の妨げになり、換気不良になったと考えられる。

 

症例18

 

【考察】

筆者はこれまで、院内で技士が1人ということもあり、本例以外の患者さんの臨床技術提供に追われていた。今回の取り組みで、患児が瀕死の状態であるのは、「主治医に任せておけば大丈夫。医者から何も言われないからいいわ」と無関心で事態を捉えていた筆者の想いと結びついていると分かった。
  また「因縁果報ウイズダム基本篇」によって、患児の「生きよう」とする力を信じて「因」と「縁」の転換に挑戦したとき、条件的にも厳しく、生死をさまよう状況であっても、患児の病状は徐々に改善した。「諦めてはいけない、この子の呼吸が少しでも楽になるようにできる限りのことはやろう」と指示待ちをやめて、自分から主治医に関わるという「因」の転換と、治療の方法や原理、期待される治療効果などを主治医と麻酔科医に説明し、換気方法の変更を提案した。さらに、主治医が選択された換気方法を看護師に説明し、協力体制が整うという「縁」の転換が結びついて、患児は瀕死の状態から予想以上に病状が改善したと示唆された。

 

【まとめ】

本症例において、条件的にも厳しく、生死をさまよう状況であっても、筆者が「因縁果報ウイズダム基本篇」に取り組み、「因」を転換し「縁」を整えることで、「果報」として患児の病状が予想以上に改善したと考えられた。 集中治療領域において、筆者がTL人間学に基づき、「できる限りのことはやろう」と心を転換し、指示待ちをやめて、自分から主治医と関わるという「因」の転換と医師や看護師と協働するという「縁」の転換を起こしたことによって、臨床工学技士がもつ専門知識が活かされ、治療における最善の道が切り開かれた。

  • ∗参考文献
  • ・高橋佳子『新・祈りのみち』 三宝出版
  • ・丸川征四郎・福山学『人工呼吸器ハンドブック2008』 医学図書出版
  • ・RESPIRATORYCAREAUGUST2008Vol.1No.2